身体拘束の禁止と適正化—障害福祉事業者が知っておくべきこと

目次

身体拘束の適正化について

身体拘束の定義と法的背景

 障害福祉事業において、身体拘束は利用者の行動を制限する行為を指します。具体的には、衣類や綿入り帯なので、一時的に運動を抑制したりする行為などが該当します。しかし、これらの行為は、利用者の人権を侵害する可能性が高く、原則として禁止されています。

 障害福祉事業の指定基準には、「身体拘束等の禁止」として、福祉サービス提供事業者は第35条の2に従い、緊急やむを得ない場合を除いて身体拘束を行ってはならないと定められています。この「緊急やむを得ない場合」とは、切迫性非代替性一時性3要件を全て満たす状況であり、その際にも詳細な記録が必要です。

※3つの要件について

切迫性利用者本人又は他の利用者等の生命、身体、権利が危険にされされる可能性が著しく高いこと。
非代替性身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないこと。
一時性身体拘束その他の行動制限が一時的であること。
【参考】指定基準:身体拘束等の禁止(第35条の2)
  1.  事業者は、サービスの提供に当たっては、利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体拘束等」)を行ってはならない。
  2.  事業者は、やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならない。
  3.  事業者は、身体拘束等の適正化を図るため、次に掲げる措置を講じなければならない。
    1.  身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。
    2.  身体拘束等の適正化のための指針を整備すること。
    3.  従業者に対し、身体拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること。
参考基準の解釈通知:(26)身体拘束等の禁止(基準第35条の2)
  • 基準第35条の2第1項及び第2項は、利用者又は他の利用者の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体拘束等を行ってはならず、緊急やむを得ない場合に身体拘束等を行う場合にあっても、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならないこととしたものである。

    なお、緊急やむを得ない理由については、切迫性、非代替性、一時性の三つの要件全てを満たし、かつ、組織としてそれらの要件の確認等の手続きを行った旨を記録しなければならないこと。
  • 同条第3項第1号の「身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会」(以下「身体拘束適正化検討委員会」という。)は、事業所に従事する幅広い職種により構成する。構成員の責務及び役割分担を明確にするとともに、専任の身体拘束等の適正化対応策を担当する者を決めておくことが必要である。

    身体拘束適正化検討委員会には、第三者や専門家の活用に努めることとし、その方策として、医師(精神科専門医等)、看護職員等の活用が考えられる。

    また、事業所単位でなく、法人単位での委員会設置も可能であるため、事業所の規模に応じた対応を検討すること。

    なお、身体拘束適正化検討委員会は、少なくとも1年に1回は開催することが必要であるが、虐待防止委員会と関係する職種等が相互に関係が深いと認めることも可能であることから、虐待防止委員会と一体的に設置・運営すること(虐待防止委員会において、身体拘束等の適正化について検討する場合も含む。)も差し支えない。

    指定居宅介護事業所が、報告、改善のための方策を定め、周知徹底する目的は、身体拘束等の適正化について、事業所全体で情報共有し、不適切な身体拘束等の再発防止や身体拘束等を行わない支援方法の検討につなげるためのものであり、決して従業者の懲罰を目的としたものではないことに留意することが必要である。

    身体拘束適正化検討委員会における具体的な対応は、次のようなことを想定している。なお、身体拘束適正化検討委員会における対応状況については、適切に記録の上、5年間保存すること。
    • ア 身体拘束等について報告するための様式を整備すること。
    • イ 従業者は、身体拘束等の発生ごとにその状況、背景等を記録するとともに、アの様式に従い、身体拘束等について報告すること。
    • ウ 身体拘束適正化検討委員会において、イにより報告された事例を集計し、分析すること。なお、イにより報告された事例がない場合にも、身体拘束等の未然防止の観点から、利用者に対する支援の状況等を確認することが必要である。
    • エ 事例の分析に当たっては、身体拘束等の発生時の状況等を分析し、身体拘束等の発生原因、結果等をとりまとめ、当該事例の適正性と廃止へ向けた方策を検討すること。
    • オ 報告された事例及び分析結果を従業者に周知徹底すること。
    • カ 廃止へ向けた方策を講じた後に、その効果について検証すること。
  • 同条同項第2号の指定居宅介護事業所が整備する「身体拘束等の適正化のための指針」には、次のような項目を盛り込むこととする。
    • ア 事業所における身体拘束等の適正化に関する基本的な考え方
    • イ 身体拘束適正化検討委員会その他事業所内の組織に関する事項
    • ウ 身体拘束等の適正化のための職員研修に関する基本方針
    • エ 事業所内で発生した身体拘束等の報告方法等の方策に関する基本方針
    • オ 身体拘束等発生時の対応に関する基本方針
    • カ 利用者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針
    • キ その他身体拘束等の適正化の推進のために必要な基本方針
  • 同条同項第3号の従業者に対する身体拘束等の適正化のための研修の実施に当たっては、身体拘束等の適正化の基礎的内容等適切な知識を普及・啓発するとともに、当該指定居宅介護事業所における指針に基づき、適正化の徹底を図るものとする。

    職員教育を組織的に徹底させていくためには、当該指定居宅介護事業所が指針に基づいた研修プログラムを作成し、定期的な研修を実施(年一回以上)するとともに、新規採用時には必ず身体拘束等の適正化の研修を実施することが重要である。

    また、研修の実施内容について記録することが必要である。なお、研修の実施に当たっては、事業所内で行う職員研修で差し支えなく、他の研修と一体的に実施する場合や他の研修プログラムにおいて身体拘束等の適正化について取り扱う場合、例えば、虐待防止に関する研修において身体拘束等の適正化について取り扱う場合は、身体拘束等の適正化のための研修を実施しているものとみなして差し支えない。

身体拘束適正化検討委員会

「身体拘束適正化検討委員会」は、事業所内の様々な職種で構成され、各構成員の役割や責任が明確にされる必要があります。委員会には、医師(精神科専門医等)や看護職員といった第三者や専門家を積極的に活用することが推奨されています。

また、この委員会は年に1回以上の開催が義務付けられており、虐待防止委員会と一体的に運営することも可能です。目的は、事業所全体で情報を共有し、不適切な身体拘束の再発防止や支援方法の検討に活かすことであり、懲罰を目的としないことに留意する必要があります。

具体的な対応として、❶身体拘束に関する報告様式の整備、❷従業者による記録と報告、❸事例の集計・分析、❹廃止に向けた対策の実施とその効果検証、❺事例や検討結果を従業者と共有、を行うこととなっています。
また、これらの対応状況は適切に記録され、5年間の保存が義務付けられています。

「身体拘束等の適正化のための指針」を作成

事業所は「身体拘束等の適正化のための指針」を整備することとされています。指針には次のような項目を盛り込む必要があります。

指針の項目
  • 事業所における身体拘束等の適正化に関する基本的な考え方
  • 身体拘束適正化検討委員会その他事業所内の組織に関する事項
  • 身体拘束等の適正化のための職員研修に関する基本方針
  • 事業所内で発生した身体拘束等の報告方法等の方策に関する基本方針
  • 身体拘束等発生時の対応に関する基本方針
  • 利用者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針
  • その他身体拘束等の適正化の推進のために必要な基本方針

定期的な研修の実施

従業者への身体拘束適正化の研修は、基礎知識の普及と啓発を行い、事業所の指針に基づいて適正化を徹底することが目的です。研修は年に1回以上の定期実施が必要であり、新規採用者には必ず適正化に関する研修を行うことが重要です。

また、研修内容の記録も必要で、他の研修と一体的に行うことが可能です。例えば、虐待防止研修に身体拘束の適正化を組み込むことも認められます。尚、研修の実施内容についても記録することが必要です。

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