入所系施設における障害者の安全確保は重要な課題です。
その中で、消防法の規定がスプリンクラーの設置に関わる重要な要素となります。
障害者施設がどのような条件でスプリンクラーを設置する必要があるのか、以下で詳しく検証していきます。このページでは、入所系施設(短期入所・共同生活援助)に必要な消防設備と、消防署との協議の流れについて解説します。
※日中活動系については、スプリンクラーまでは不要ですが、消防との協議の流れについては参考にしてください。
消防の審査の流れ
消防との事前協議
まず、入所施設に使おうとする建物の情報が必要になります。
図面・建築確認申請書・建築確認済証など集めれるだけ集めておきましょう。
まずは消防の窓口での確認となるため資料は多いほど、現地の様子を消防署に伝えることができます。
物件に関する資料を持参し、建物を使用する目的や利用者数・平均障害程度区分・従業員数などを伝えます。
事業種別によって要求される消防の基準が変わります。
障害者の入所施設では、利用者数と平均障害程度区分が重要となります。
後に述べる「6項」に関わるからです。
資料などからある程度、必要な設備等を教えてくれますので、必ず控えておきましょう。「協議記録」は障害福祉サービスの新規申請に必要な書類になります。
設備会社との協議
消防設備を専門とする会社があります。
ネットで探せばすぐに見つかるかと思います。
できるだけ実績があって、消防署と何度も協議している会社が安心かと思います。前項の消防との協議の際に、消防署の方に伺ってみても良いです。
設備会社の人に、実際に物件を見てもらいます。その時に、(設備会社の方でも、必要な設備は把握してるでしょうが)前述の消防との協議記録もあれば話がスムーズです。
必要な設備がわかったら、工事の見積もりを出してくれます。問題なければ、工事にうつります。
いよいよ工事に入ります。
建物のリフォームも同時に行っている場合は、スケジュール調整が必要なのはもちろんのこと、大規模に間取りを変えたりすると、必要な設備の数も変わってきます。
可能であれば、事前に設備会社とリフォームの工務店も交えて打合せを行った方が良いです。
消防の現地調査
工事が完成したら、消防と調整して現地確認してもらいます。
設備会社もおそらく同席してくれると思います。
問題なければ、消防的には施設としての使用許可が下りたということになります。
消防の基準
消防法 6項の区分
実際に消防署にて協議を行った結果をまとめます。
消防法の6項ロかハによって、大きく変わる。利用者定員のうち障害程度区分4以上が80%以上を占める場合は、「6項ロ」それ以外は「6項ハ」となります。
定員のうち(現利用者数ではない)区分4以上が概ね80%です。
たとえば、定員5人で、開所したてのため区分5が一人利用でも問題ありません。
▼利用定員6名の場合の区分4以上、3以下の組み合わせと6項ロ・ハの対比表です。
区分4以上 | 6名 | 5名 | 4名 | 3名 | 2名 | 1名 | 0名 |
区分3以下 | 0名 | 1名 | 2名 | 3名 | 4名 | 5名 | 6名 |
区分4以上の割合 | 100% | 83% | 67% | 50% | 33% | 17% | 0% |
六項の区分 | 6項ロ | 6項ロ | 6項ハ | 6項ハ | 6項ハ | 6項ハ | 6項ハ |
区分4以上が1人の場合どうなる?100%?
開所したてで、定員に対して利用者が1人という状況も想定されます。その場合はどうなるのか?区分4が一人の場合でもスプリンクラーが必要でしょうか?
その場合は、利用定員に占める区分4以上の人数で判断するようです。つまり区分4が1名、他はいないので区分3以下が5名として、17%と推定されるようです。ただし、担当の消防署によって意見が異なるかもしれませんので、事前に相談してください。も
6項ロの場合
- スプリンクラーは必要
- 消火器は各階に1つ設置(10型) ※窓等の開口によっては緩和される場合あり
- 自動火災通報装置…電話回線で消防署に自動で通報するもの
- 誘導灯
6項ハの場合
- スプリンクラーは不要
- 消火器は各階に1つ設置(10型) ※窓等の開口によっては緩和される場合あり
- 自動火災報知設備
- 誘導灯
各設備の必要数などは、実際に建物を見ての判断となるので、依頼する設備会社と相談のうえ決めていくことになります。(設備会社に消防設備の知見があるので)
スプリンクラーは必要か?
消防法の改正により原則義務付けられましたが、「6項ハ」に該当する場合は、免除されます。細かく見ていきましょう。
6項ロ→設置義務有り 6項ハ→設置義務無し
消防設備に関して、一番大がかりなものはやはりスプリンクラーです。
詳細は前項の通りですが、改めて申しますと、消防法の6項ロの条件に該当するとスプリンクラー設置が義務となります。
6項ハであれば、利用者の障害程度区分による制限はありますが、スプリンクラーは免除されます。(2022年時点)
スプリンクラーを設置しました
通常のスプリンクラーがあれば、それに越したことはないのですが、後付けするとなれば大変です。現在は水道管に繋がっておらず、消火器のように消火剤を天井から噴射するタイプのスプリンクラーがありますので、こちらを設置する方が費用的にメリットがあるかもしれません。
”スプリネックス”で検索してみてください。
設備会社の方にお話しを聞くと、壁の材質によってスプリネックスのモデルが変わったり、実際の設置にあたっては、薬剤が全体に届くような配置等の細かい仕様がきまって、それによって必要な本数も変わってくるようです。
実際にスプリネックスを設置してどうか?
約100㎡の5LDKに11~12本設置しました。本体は縦長で壁に沿って設置。その本体から天井に向かってホースが伸び、天井裏を通って、天井に噴射口が設置されます。
本体にはLEDが設置されており、正常であっても緑のLEDが点滅します。定期的にバッテリー交換が必要なようです。
自動通報装置
火災が発生した時に、自動で消防署に通報する設備が必要です。尚、回線は(2020年当時)アナログ回線の必要がありました。毎月電話回線費用(2,500円/月ぐらい?)が発生します。
1ボタンで、あらかじめ録音した住所や名前などが、音声情報(機械音声)により自動で通報されるのとともに、通話ができる装置です。消防機関からの呼び返しにより、担当間と直接会話できるそうです。
設置は専門の方にお任せでしたが、一般家屋でも問題なく設置できました。
誘導灯
出口までの経路をしめす誘導灯です。必要な箇所に設置します。設置場所はいろいろ基準があるようですが、設備会社にお願いしましょう。
当然ですが、夜間も常時点灯しています。本体はそれほど大きくはありません。
壁紙(クロス)・カーテン等
カーテン等は、下のシールがついたものを選びましょう。壁紙は防炎ラベルまでは不要のようです。
※生活介護等の日中活動系は壁紙の防炎ラベルは必要です。下地と合わせて防炎性能が満たされる場合に限り発行されるようです。一般には手に入らないので工務店等に相談しましょう
他に、フローリングの上に敷く燃えやすい材質のものはダメなど細かく決められています。管轄の消防署に確認しましょう。
短期入所においての防炎ラベルについて、カーテンと壁紙で違っていました。
- カーテン等・・・防炎必要
- 壁紙(クロス)・・・防炎不要
その後の流れ
「防火対象物使用開始届」は、設備会社が作ってくれるのでお任せしましょう。細かい基準が多くあり専門家に任せた方が良いでしょう。
「防火対象物使用開始届」を作成し、管轄の消防署に提出。その後、消防の現地確認となります。
設備会社によっては、「防火対象物使用開始届」の提出も行ってくれ、消防の現地確認にも同席してくれます。設備を依頼する際には事前に確認しておいてほうがいいかと思います。
その他
その他、協議の中で確認したことを列挙します。
- 耐火建築・準耐火建築までは要しない
- 防炎シールのある壁紙(クロス)も不要 ※日中活動系施設は防炎指定でした
- ただし、カーテン・カーペット等は難燃性のものを使用すること
- 畳はOK